機能毎に見るポリエステル糸(PET)とナイロン糸 ータクティカルギアを構成する繊維その3ー
「タクティカルギアを構成するその2」では、化学繊維の種類やそれぞれの化学繊維によって機能が異なることを見てきました。今回は、繊維が持つ機能について合成繊維の代表的な糸であるポリエステル糸とナイロン糸を比較しながら、それぞれの機能の違いを見ていきたいと思います。
繊維が持つ機能
引張強度(cN/dtex)
引張強度は、cN/dtexなどで表されます。cN/dtexは、糸に重りを付けて、重りを徐々に重くしていき、糸が切れるときの、繊維の太さ(デシテックス)に対する引っ張る力(センチニュートン)です。1テックス(tex)は太さを表す単位で、長さ1,000mに対して重量1gである繊維や糸の太さを表します。数字が大きいほど太くなります。デシテックス(dtex)は1テックスの1/10にあたります。一般的なポリエステルとナイロンともに引張強度がありますが、ナイロンの方が僅かに高い値になります。ポリエステルでも産業用として、生成や糸の製造段階でナイロン66よりも引張強度を持たせた物も存在します。
伸度(%)
伸度は、糸に重りを付けて、重りを徐々に重くしていき、糸が切れるときの、糸の伸びた長さを元の糸の長さで割って、100を掛けたものです。数字が大きいほど伸びが長くなります。ポリエステルは伸びの少ない繊維であり、ナイロンは伸びの大きい繊維であると言えます。このナイロンの伸びが、タクティカルギアの糸が引っ張られたり、加重されたりした時の切れ難さに繋がります。
弾性率
糸の硬さの目安で、伸度あたりの引張強度です。引張強度と伸度との比率が適度でともに大きいナイロンは、汎用繊維の中ではタフです。またポリエステルは、伸びが小さい時の引張強度が大きい特徴があります。
引掛強度、結節強度
繊維は一般に繊維軸方向に対して直角方向の力に弱い特徴があります。そのため、曲げや引掛けに弱いですが、ナイロンは汎用繊維の中では強い繊維と言われます。ナイロンはその特徴を活かして、自動車のエアバッグやストッキングに使用されています。
難燃性
難燃性を測る尺度として、空気中で着火したときに自然消火する性質を表す限界酸素指数(LOI)があります。LOIが高いほど自然消火性があり、一般的に26以上であれば難燃性があるとされます。ポリエステルとナイロンともに難燃性がある数値ではないという事が結論ですが、この数値の僅かな差で生地にした際の織り方などによって差が大きくなる場合があります。また、糸や生地に特殊な加工を施すことなどによっても火の消えやすさは変わります。りん系化合物を共重合した自己消火性がある難燃ポリエステルは、難燃性のない化学繊維でも原料の改質や製品の後加工などで難燃化させる一例です。
ポリエステルはバランスが良く扱いやすい繊維で、ナイロンはタフな繊維
総括すると、ポリエステル糸は、バランスよく機能が優れているため非常に扱いやすい繊維であり、生活の中では最も馴染みのある繊維と言えるのではないかと思います。ナイロン糸は、伸び縮みがあるため非常にタフですが、ミシンで縫うときに糸が伸びるためにキンクしやすい特徴があり、扱い難い繊維です。
みらい装備工房では、ナイロン糸がキンクしないように、糸をシリコンに浸けて乾燥させてから縫製しています。そのひと手間を加えても、タクティカルギアにとってナイロン糸を使うメリットは大きいと考えています。